日本ロレアルがLINEギフトで仕掛ける
これからのソーシャルギフト戦略

世界最大級の化粧品メーカー・日本ロレアル株式会社が、LINEギフトで複数の取り組みにより、目覚ましい成果を得ています。ソーシャルギフトサービスの拡大と浸透に伴い、ますます商機が広がることが予想されるギフト市場において、同社が期待することは何か? ロレアル リュクス事業本部の竹内麻見子さんに話を聞きました。

日本のギフト需要の最上位は「誕生日」

御社では2022年9月以降、「イヴ・サンローラン・ボーテ」「シュウ ウエムラ」「キールズ」「ランコム」「ヴァレンティノ ビューティ」「アルマーニ ビューティ」「メゾン マルジェラ フレグランス」の 7 ブランドが段階的にLINEギフトへ出店されています。まずは、LINEギフトの活用を決めたきっかけから教えてください。

竹内さん: 2020年からの世界的なパンデミックにより、気軽に家族や友人に会える機会が極端に少なくなりました。そこで、お祝いや感謝の気持ちを伝えるために、ソーシャルギフトサービスが台頭してきた流れを受けて、弊社でも新たなビジネスの機会を開拓したいと考え、この分野のマーケットリーダーであるLINEギフトさんに着目したことがきっかけになります。

LINEというプラットフォームについては、どのようにイメージされていましたか?

竹内さん: 私自身もなかなか友人と会えない時期に、LINEギフトでお花をいただいたことがありました。なるほど、こういう使い方もあるんだなと、私もそれを機に友人へのギフトに使わせていただくようになりましたから、コスメともきっと相性がいいだろうと肌身で感じていました。

施策のひとつとして、誕生日向けの商品をLINEギフト上で展開されました。これにはどのような狙いがあったのでしょうか。

竹内さん: これまでの調査から、誕生日がギフト需要の中で最も上位にあることはあらかじめ認識していました。お客様へのアンケート調査でも、ギフト購入の実に8~9割が誕生日祝いであるとの結果が出ていますから、購買体験を提供する際にこれは大きな鍵になると確信していたんです。また、ご友人同士の誕生日祝いでは、数千円単位のものが好まれる傾向があり、気軽に利用してもらいやすいことも誕生日需要を狙った理由です。

「LINEギフト限定【お誕生日エディション】キールズ No.1クリーム 27g」は、キールズの人気製品であるクリーム UFCのボトル上部に誕生日メッセージがあしらわれた、LINEギフトだけの特別なデザイン

誕生日向け商品として、最初にリリースされたのはキールズのクリーム UFCのお誕生日エディションでした。この商材をセレクトされた理由は何でしょう。

竹内さん: これにはいくつか理由があります。1つは、クリーム UFCがキールズというブランドを代表する製品であること。次に、LINEギフトというプラットフォームの特性上、3000円程度のカジュアルな価格帯の製品が望ましかったこと。そして3つめに、お隣の韓国で先行していたソーシャルギフトサービスにおける弊社のデータから、類似した製品の誕生日向けエディションが好調であるというデータを得ていたことが大きかったですね。

「LINEギフト限定【お誕生日エディション】キールズ No.1クリーム 27g」は2023年4月の発売以来、順調に売上を伸長。LINEギフトの誕生日ギフトとしても人気商品として定着している

果たして、「お誕生日エディション」は通常版と比較して月平均で約 7.7倍(※)の売上を誇る人気商品になるという、著しい結果が出ています。

竹内さん: ありがたいことです。もともとキールズを代表する売れ筋であったことはもちろん、誕生日向けであることがひとめでわかるパッケージを採用したことも、こうした成果に繋がっているのではないでしょうか。 ※2023年10月時点
また、メゾン マルジェラ フレグランスの先行販売を、6月(セーリング デイ バス&ボディー コレクション)と9月(レプリカ ヘアミスト レイジーサンデー モーニング)に実施されました。その目的は?
竹内さん: ヘアケア、ボディケア用品というのは、もともとギフトとの親和性が非常に高いものです。これをLINEギフトで先行販売することで、ブランドのさらなる認知度向上はもちろん、セールス的にも良い滑り出しになるのではないかと考えました。

誕生日、クリスマスに続く需要の掘り起こしを目指して

LINEギフトでの一連の取り組みのひとつに、「もらった人が色や香りを選べる機能」のテスト導入がありました。贈る側が製品を選び、受け取る側がカラーや香りなどを選択できるというこの新たな機能について、どのような感想をお持ちですか。
竹内さん: 事前のマーケティングにおいて、贈る側としては「色を気に入ってもらえるかどうか」、「その製品が肌に合うかどうか」、「香りが好まれるかどうか」の3点が最大の懸念事項であるというデータが得られていました。逆にいえば、これらの3点が解消されれば、ギフト購入のハードルが一気に下がることになりますから、「もらった人が色や香りを選べる機能」はお客様の購買体験を1段階上げる、画期的な機能であると感じています。それはソーシャルギフトという分野そのものを底上げすることと同義ではないでしょうか。

「もらった人が色や香りを選べる機能」がある製品では、ギフトを受け取った相手が自分好みの色や香りを選択して受け取ることができる。ギフト選びにおける難しさをひとつクリアした、ソーシャルギフトならではの機能

何より、お客様の購買体験が上がることは、御社のブランドの価値向上にも繋がりますね。
竹内さん: おっしゃる通りです。まだまだこうした機能は限定的で、だからこそお客様の満足度に大きく寄与するものであるはず。結果として弊社のブランドへのロイヤリティ醸成にも繋がっているのではないかと思います。

「お友だちが色を選べる【YSL No1リップ】シロップリップ」は2023年5月に「もらった人が色や香りを選べる機能」をテスト導入。シーズナルでの効果的な打ち出しも功を奏し、ショップがオープンした2022年9月と023年9月との比較で、売上は約 31.9 倍の伸び率となった。

御社のここまでのLINEギフトでの取り組みは、いずれも大きな反響を呼びました。成功要因をどのように分析されていますか。
竹内さん: やはり価格帯ではないでしょうか。ソーシャルギフトでは、あまりに高価なものは受け取る側が気後れしてしまうこともありますので。その点、3000~5000円の価格帯というのは、互いにハッピーな購買体験として受け入れやすいのだと思います。
当初の売上げ目標と比較して、実際の成果はいかがでしたか。
竹内さん: 製品によって多少のばらつきはあるものの、誕生日向け製品については私たちの予測よりもはるかに良い数字が出ました。一同あらためて、誕生祝いの需要の大きさに驚いています。
ここまでの成果について、社内での反響はいかがでしょう。
竹内さん: 一連の取り組みに関しては社内でも高い評価を得ていまして、ぜひ今後も一緒にギフト需要に挑戦させていただきたいと思っています。我々が保有するデータも生かしながら、引き続き様々なマーケティング活動を展開できれば嬉しいですね。

今後、LINEギフトに期待することを教えてください。

竹内さん: 誕生日というのは、間違いなくこれからもギフトの重要な柱になるでしょう。LINEギフトではとくに、お客様ご自身で誕生日や「ほしいものリスト」の登録が可能ですし、ご友人の誕生日のリマインド機能もありますから、弊社としても引き続きそうした機会に選んでいただけるブランドでありたいと強く願っています。
そして、その他の需要としては、クリスマスや母の日が想定されますが、これは見方を変えれば、年間の大きな商機がまだその程度しか開拓できていないということでもあります。ビューティ系アイテムの新たなビジネスチャンスの開拓に、ぜひご協力いただきたいと考えています。

逆にLINEギフト全体で見れば、以前はスキンケアやボディケアなどのカテゴリが売上げの上位を占めていましたが、御社の参入によりメイクアップのカテゴリが大きく拡大しました。ギフト需要の掘り起こしの成果は、早くも表れ始めているように思います。

竹内さん: それは弊社としても嬉しい現象です。コロナ禍で多くの方にソーシャルギフトの利便性を知っていただけたおかげで、今後もLINEギフトのようなサービスはこの市場の重要な柱になるはずですから、双方に良い成果が得られるような施策を、引き続き考えていきたいと思っています。

(原稿:友清哲/撮影:木原基行)2023年11月16日