
ブームに沸くクラフトビール市場において、優れたブランディング戦略で着々とファンを増やしているヤッホーブルーイング。そんな同社が、今後の展開として重視するのが、ソーシャルギフトの領域です。YES!通販団星組(EC事業ユニット)ユニットディレクターの通称「うえぽん」こと植野浩樹さんに、LINEギフトでの取り組みについてお聞きしました。
ギフト需要で認知拡大とその“質”の向上を狙う
まずはLINEギフト出店の経緯から教えてください。
うえぽんさん:出店させていただいたのは2020年の12月頃です。当時はコロナ禍が始まったことによる巣ごもり需要の高まりで、ご自宅でビールを楽しむ方が増えていました。同時にEC系のプラットフォームが復調したのを受けて、我々としてはさらにその次の販路の開拓を狙いたいと検討を始めていたんです。ちょうどそのタイミングでオファーをいただいたのがLINEギフトさんでした。販路拡大を目指すにあたり、ソーシャルギフトという新しい購買体験はきっとお客様側にも受け入れられやすいだろうと感じたことが、出店を決めた主な理由になります。

通称「うえぽん」こと植野浩樹さん
※社内ではお互いを愛称で呼び合う「ニックネーム制」を取り入れている。
※社内ではお互いを愛称で呼び合う「ニックネーム制」を取り入れている。
日本では昔から、ビールはギフトと非常に相性の良い商材という印象があります。
うえぽんさん:そうですね。我々のECでも、大まかには自家需要の商品とギフトの2通りに分かれていて、特に大きなギフト商戦は父の日なんです。お酒の好きなお父さんに、お子さんなどご家族がビールを贈る需要は大きく、他社のECプラットフォームでも毎年この時期には顕著に売上げを伸ばしています。
そうした中で、とりわけLINEギフトに期待したことは何でしょうか。
うえぽんさん:さらに売上げを伸ばすことはもちろんながら、既存のECや小売店などの販路と異なり、まだ弊社をご存じでないお客様にアプローチし、認知を高めていくには最適なプラットフォームではないかと考えていました。ブームと言われてはいても、クラフトビールはまだまだビール市場全体の中ではニッチなジャンルですし、また、我々の製品も首都圏以外の地方ではコンビニやスーパーなどでの取り扱いも少ないのが現状です。その意味で、これまでにないプロモーション効果が期待できるのではないかと感じていました。
地方での認知が課題というのは、少々意外な気もします。
うえぽんさん:店頭に製品が置かれている率でいうと、おかげさまで首都圏はそれなりに高い数字を維持しているものの、都心から離れるほど低下しているのが実状なんです。その点、ギフトの場合、購入された方は「よなよなエール」を知っていても、それを受け取る方は初耳というケースもあるでしょう。ましてそれが、父の日にお子さんから贈られたものであったら、非常に良いイメージで製品を受け止めていただくことができ、認知の質も変わってくると思います。LINEギフトへの期待も、まさにここにありました。
地方での認知拡大という狙いでいくと、首都圏の購入者から遠方の方にギフトとして贈られるのが理想的ですね。
うえぽんさん:そうですね、まずその流れができると我々としては非常にありがたいです。また、ヤッホーブルーイングでは会社のミッションとして、「ビールに味を。人生に幸せを。」というフレーズを掲げています。
日本ではビールといえば長らく、ほぼ1種類のラガービールだけが市場を独占してきましたが、そこに様々なバリエーションを提供できるのがクラフトビールの楽しさであり文化です。その礎を築くという目的からも、まだ我々がアプローチできていないお客様に商品を届けられるのは、非常に有意義だと思います。
日本ではビールといえば長らく、ほぼ1種類のラガービールだけが市場を独占してきましたが、そこに様々なバリエーションを提供できるのがクラフトビールの楽しさであり文化です。その礎を築くという目的からも、まだ我々がアプローチできていないお客様に商品を届けられるのは、非常に有意義だと思います。

人気製品「よなよなエール」
父の日以外の商機でいうと、どのような時期が挙げられますか。
うえぽんさん:やはりお中元、お歳暮が大きいですね。しかし、LINEギフトでの売上げを見ていると、このほかにバレンタインやホワイトデー、クリスマスなどにも需要の高まりが確認でき、ギフト商戦の内訳の変化のようなものは感じています。これは自社のECではあまりない傾向なので、LINEギフトのメインユーザーである20代にも少しずつ認知されているのではないかと考えています。若い世代は親しい相手の住所や電話番号を知らないのが当たり前になってきていますから、LINEギフトとの親和性は高いのでしょう。
LINEギフト出店から4年目。ここまでの成果をどう分析していますか。
うえぽんさん:まず率直に体感しているのは、ソーシャルギフト市場のポテンシャル、可能性の高さです。
LINEギフトに出店を決めた時点では、正直どれほど売れるのか、まるで想像できませんでしたが、最初のクリスマスシーズンから需要の高まりに驚かされました。しかも、その売上げが年々伸び続けています。今後、スターバックスさんのeギフトなどを贈り合っている20歳未満の未成年の方が、その習慣をそのままもって20歳になった時には、さらなるお酒のソーシャルギフト市場の拡大が期待できると思います。それはそのまま、ビールのバリエーションを伝えたいという我々の理念に合致していますから、なおさらプラットフォームとしての期待は高まりますね。
LINEギフトに出店を決めた時点では、正直どれほど売れるのか、まるで想像できませんでしたが、最初のクリスマスシーズンから需要の高まりに驚かされました。しかも、その売上げが年々伸び続けています。今後、スターバックスさんのeギフトなどを贈り合っている20歳未満の未成年の方が、その習慣をそのままもって20歳になった時には、さらなるお酒のソーシャルギフト市場の拡大が期待できると思います。それはそのまま、ビールのバリエーションを伝えたいという我々の理念に合致していますから、なおさらプラットフォームとしての期待は高まりますね。
特別なギフト体験で新たなファンを作る
父の日や卒業シーズンに向けたオリジナルのラッピングが話題になりました。
うえぽんさん:レビューを見ていると、「子どもが自分のために選んでくれたのが伝わってきて嬉しい」といった声が多く見られ、こちらも手応えを感じています。こうした専用の包装には、それなりに労力やコストがかかるのですが、自分にとって特別な日に贈られたビールには、やはり特別な体験がもうひとつ乗るのだな、ということがこちらも実感できています。これは誕生日ギフトにも言えることです。

父の日限定 オリジナルラッピング
御社は組織としてのファンマーケティングに長けた企業として定評がありますが、それがLINEギフトでも存分に発揮されているように感じます。
うえぽんさん:社内にファンマーケティング専門のチームがありますので、そのあたりは戦略的にやっています。具体的には、「よなよなエールFUN×FAN団」というユニットを設けて、イベントなどを通してファンの方と積極的にコミュニケーションを取り、新たなファンをどんどん増やしていく取り組みを行っています。たとえば、毎年夏場に実施している「よなよなエール 大人の醸造所見学ツアー」などもそうした施策の一環ですね。日頃、社内はもちろん、お客様ともニックネームで呼び合うようにしているのも、ファンの方をどんどん増やしていいこうというマインドの表れです。
LINEギフト上でのファンマーケティングについてはいかがでしょうか。
うえぽんさん:父の日や誕生日専用の包装などはその一手ですが、このほかでは商品に同梱している冊子を使って、我々の思いをできるだけリアルにお伝えするよう努めています。贈られてきたものがどのような会社がつくった、どのようなビールなのかを知っていただくことは、大切なコミュニケーションだと思っています。また、ギフトで貰ったという特別な体験がきっかけで、よなよなエールの新たなファンになっていただける。という感覚があり、「ファンが新たなファンを作る」というのがLINEギフトの強みだと思っております。
最後に、今後のLINEギフトに期待することがあれば教えてください。
うえぽんさん:可能なら、ご購入いただいたお客様の感想がわかる機能があると、さらにできることが広がりますよね。もしかすると、購入された方はお酒を飲めない人かもしれません。それならそれで、なぜヤッホーブルーイングのクラフトビールに注目してくださったのか、ご意見を聞いてみたい気持ちがあります。そうした情報を元に次の施策を検討して、ゆくゆくは「クラフトビールを贈るならLINEギフトだよね」と言ってもらえるような世界をつくることができれば理想的でしょう。
なるほど。御社の今後の展開がますます楽しみになりました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
(原稿:友清哲/撮影:木原基行)2024年6月24日